むかーしむかーし、あるところにお爺さんとお婆さんがおったそうな。
お爺さんは朝からいそいそと芝刈りに。
お婆さんは川で洗濯へ。

そんな2人の出会いは、五十年前。
お爺さんが団子屋の看板娘だったお婆さんへの一目惚れから始まりました。

お婆さんは当時、村一番の美人で困っている人にはそっと手をのばす人柄で、皆から愛されていました。
いつもお腹を空かせた子供を見ては、店に内緒で団子を与えていました。
いっぽうお爺さんは女性に免疫がなく、お婆さんに話しかけたくてもなかなか店に足を運ぶ事ができずただただ、店の影からお婆さんを眺めていました。

そんなある日、お爺さんがお婆さんを眺めていると、お婆さんお爺さんの方を見て笑みを見せました。
お爺さんは、こちらに気づかれた焦りと、なんとも美しいお婆さんのその笑みに身体中が真っ赤になりました。

お爺さんはその場から急いで逃げ出そうとしました。

すると、

『ダンゴ、お好きですか?』

お婆さんが話しかけて来ました。
お爺さんはどうしていいかわからず、しどろもどろに
『あ…好きって言うか…別に食べても良いけど別にそんな好きって訳でもないから…』

と言いました。

そんなお爺さんにお婆さんは
『この店一番のダンゴですよ。良かったら食べて行きませんか?』
お爺さんは、今までただ物陰から見ていたお婆さんと初めて会話を交わし、頭の中はもうアゲポヨでした。
『別に、そんな好きって訳でもないけど、別に食べても良いけど』
お爺さんは心とは裏腹にぶっきらぼうに答えました。
そしてお爺さんはそれから毎日、お婆さんのいるダンゴ屋へ足を運びました。


2人はいつしか付き合うようになりました。
お祖父さんの告白の言葉は
『俺がダンゴで君がアンコだ』
でした。

そして2人の交際が始まって五年、2人は結婚する事になりました。
お爺さんのプロポーズの言葉は
『ダンゴには串が刺さってこそ味わいがある。俺がダンゴで君が串だ』
でした。


そして結婚式。

2人は結婚式の入場曲でメチャクチャもめました。
お爺さんは、GLAYの『ハウエバー』
お婆さんはドリカムの『未来予想図U』
結局、大喧嘩し婚約破棄まで行きそうになりましたが、
間をとって
モー娘の『ハッピーサマーウエディング』に決まりました。

って事があったなあって思い出してお婆さんが川で洗濯をしていると、
川上からドンブラコドンブラコと大きな桃が流れてきました。

お婆さんは
『あれまあ、大きな桃だこと』
と大変驚きました。

しかし、お爺さんのブリーフに付いたウン筋を洗った川に流れた桃を、拾おうとは思いませんでした。

そのまま桃は川下へと流れて行きました。


一方その頃お爺さんは、芝刈りとはただの口実で、川下にあるキャバクラで遊んでいました。

お爺さんがキャバクラの娘とアフターに出ようと店を出たところ、何やら大きな桃が川上から流れてくるではありませんか。

お爺さんは
『しめしめ、この桃をキャバクラの娘に見せたらさぞかし驚くだろう』
と思い、川に飛び込み見事桃をゲットしました。
店からキャバクラの娘が出てくると、『おーい桃じゃ桃。こんな桃は見たことないじゃろ』

と、満面の笑みで叫びました。

しかしキャバクラの娘は
『いやマジずぶ濡れのジジイと歩きたくないから。今日は帰るわ』
と言って、そそくさと帰って行きました。

お爺さんは大変落ち込み
『しょうがねえ、キャバクラ行ったのバレると不味いから婆さんにあげるか』

と、しぶしぶ家に持ち帰りました。

お婆さんは、お爺さんが持って来た桃を見て
『それ、お前のウン筋を洗った川に流れた桃だから。てかどうせキャバクラで遊んでたんだろ』
と言いました。

お爺さんはなんか更に落ち込み、その桃を再び川へ流しました。

桃は再びドンブラコと流れ、
鬼が住む鬼ヶ島へと流れ続けました。
鬼たちはその不思議な桃を見てキャッキャキャッキャはしゃぎ、桃をみんなで食べようと桃を割りました。

するとどうでしょう。
桃の中から人間の赤ん坊が出てきました。

鬼たちはとても驚きました。
人間は鬼たちをその見た目から恐れ、忌み嫌っていました。

『人間の子だ』
鬼たちは少し戸惑いました。
するとその赤ん坊は
『僕は人間に捨てられました』
と言いました。

鬼たちはたいそう赤ん坊が可哀想になり、自分達でその赤ん坊を育てる事にしました。

赤ん坊は『桃太郎』と名付けられ、すくすくと育ちました。

鬼たちは人間に嫌われていますが、いつか解り合える日がくると桃太郎に教え育てました。

それでも人間の鬼たちに対する偏見は何年たっても変わることはありませんでした。

桃太郎は、こんなに良くしてくれる鬼たちを軽蔑する人間達を、どうしてもオニ好きになれませんでした。
すると、鬼の長『いぶし銀のジロチョウ』が言いました。
『恨んではならん。それこそが心に潜む鬼なのだ。いつか解り会える。お前はその架け橋となりうる人間なのだよ。』

桃太郎は思いました。
本当の鬼とは、我々の心に潜む
恨み、妬み、差別、支配欲…
それこそが『鬼』という存在なのかもしれない。


一方お爺さんは、日々のキャバクラ通いがバレお婆さんにしばかれる毎日。
芝刈りにも行けずしばかれています。
お爺さんにはお婆さんが鬼のように見えました。

お爺さんは思いました。
本当の鬼とは、旦那を人と扱わず、やれ肩揉めとか、夕飯作れとか、離婚すっぞとか脅してくるお婆さんなのではないかと…。
それでも自分から離婚は切り出しません。だってお婆さんをオニ愛しているから…。


一方お婆さんは、今の体たらくなお爺さんを好きになったんじゃない。本当は厳しくしたくないけどあの頃のウブで優しかったお爺さんに戻って欲しい。
その一心でお婆さんはお爺さんに厳しくして気付いてもらいたかったのです。
例え自分が鬼と呼ばれようと…。
お婆さんは思いました。
本当の鬼とは恐ろしい化け物ではない。甘やかしてはダメになる。心を鬼にすることは裏返しで、本当はオニ愛しているから…。



めでたしめでたし